鎮魂

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確かに。 馬たちは、自由に野生で生きていきたかったのに、人間の都合で過労死させられたんだ。 そりゃぁ、恨みも大きいだろう。 しかし――――僕達が何で祟られたのかは理由が分かった。 けれど、もう一つ。 僕には理解不能なことがあった。 「叔父さん、僕が危険な目に合っているってよく分ったね?」 『あぁ。それな』 僕の身に起きていることを知っているかのような口ぶりだった叔父への疑問を投げつけると、彼はフッと笑い、優しい目を僕に向けて語りだした。 『お前、俺が大怪我をして馬の背中に乗る事すら恐怖を覚えてスランプに陥っていたことを覚えているか?』 コクリと頷くと、『もちろん、復活したキッカケでもある俺の相棒の事も……』と、叔父の大切な相棒の存在を理解しているのかどうなのかを確かめるように、僕の顔を覗き込んだ。 叔父は、今でも活躍しているベテランジョッキー。 どの馬に乗っても、軽やかに、風のように馬を走らせると言われる有名ジョッキー。 そんな叔父は、一時期、レース中の落馬での怪我からスランプに陥ったものの、伝説の馬と出会い、復活を遂げた。 叔父とその馬は、まるで一つに溶け合うようにして、風のように疾走し、どんな名馬よりも強く、負け知らずだったことを今でも鮮明に覚えている。 そして、その馬が亡くなった後の、叔父の落ち込みようも。 復帰後も、数々のレースで称賛を浴びる叔父が、普段の練習ではてんでダメな癖に、レース本番の時だけは、馬と一体化したように走らせるのを、ずっと目にしてきたので、叔父から目を逸らさないことで、理解しているという意思を表した。 『アイツの墓は、別の場所にきちんとあるんだが、俺個人としても、アイツを弔いたくてな。住職に頼んで、特別にアイツの石碑も作ってもらってあるんだ。このお寺、馬にとって大事なお寺だって言っただろ? 多くの名馬達の石碑も、実はひっそりと祀られているんだ』 「それが……今回の事と何か?」 ポカンとした表情で尋ねると、喉の奥をクックッと鳴らし、目を細めた。 『こんな事言ったら、俺の事をおかしな人間だと思うかもしれないが、アイツが知らせてくれたんだよ』 「え?」 『トウカイコウテイ。俺の大事な相棒だったヤツだ』 「えぇ?」 想定外の答えに驚きの声を上げる僕などおかまいなしに、叔父は嬉しそうに続けた。
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