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『そこはな。競走馬の鎮魂碑もあるんだが、それだけじゃないんだ』
悲痛な声に息をのみ、黙って彼の話に耳を澄ます。
『その昔、農耕の為に。荷物を運ぶ為に。それこそ、馬車馬のように働かされた上、ろくに餌も与えられずに死んでいった馬たちの魂を鎮める為の塚なんだ。だからこそ、自分達の苦しみを和らげてくれる石塚を直してくれるお前には、危害は加えない! 早くするんだ!』
ここに鎮められている馬の気持ちを代弁しているかのような叔父の叫びに弾かれるようにして、僕は半べそをかきながら、一個一個丁寧に、石碑を起てていく。
その都度、江美と泰子の狂ったような叫び声と動きが、徐々に静まって行った。
最後の一個を起てる頃には、既に一時間以上経過しており、二人は昭雄同様、その場に倒れ込んで、ピクリとも動かなくなっていた。
三人への怒りを鎮めて貰えるよう、心を込めて石碑に向かって手を合わせた後、未だ通話中の叔父に向かって声をかける。
「叔父さん! 救急車を呼んで、三人を……」
言われた通りのことをしても意識を取り戻さない三人を見て、再び不安に襲われた僕の言葉を、叔父が遮った。
『今、俺も向かっている。その寺の住職にも連絡した。あと三十分くらいで到着するから待ってろ!』
既に向かっていると言われてしまえば、どうすることも出来ない。
叔父がくるまで待つしかない僕は、薄気味悪い森の中で横たわる三人を見て、心細さと恐怖心から、自分の身を抱きしめるようにして、その場に座り込んだ。
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