第1章

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 救いを求めて手を伸ばしても、誰もその手を取ってはくれない。  だからぼくは、自分に浮かぶ方法をやってみるしかなかった。思いを綴り、歌うことで。  ぼくが歌えば光は集まってくるのに、音に耳を傾けるみたいにゆらゆらとするのに、ぼくの浮かばれない音は目に見えない者たちにしかウケなくて、それ以上外に出て行かない。それは人として、結構悲しいことだ。    そんな時だ。ひどく唐突に、ぼくの前に新たなラインが現れたのは。    新たなラインは、金髪の、ちゃらちゃらした、進学校ではない高校に通っている、ぼくの友だちの友だちとして現れた。  「おまえ、楽器弾けるんだって?うちのバンドのメンバーが急に辞めたから、新しいヤツが見つかるまで、助っ人で入って欲しいんだけど」    「パンク?」  「ちげぇよ!ロックだ」  「ぼくはアコギしかやってないけど」  「練習しろよ。弾けんだろ。ギターはあるから貸してやるよ。やればたいして変わりはねぇよ」  「ああ、そう。じゃあ、いいよ」  与えられた貸しギターでぼくは練習した。  毎日。  音源を聞いて、音符を辿って、リズムを体に入れて。飯を食うことよりも熱中して、集中して、楽しんで、そうすれば指は動くようになる。曲は弾けるようになる。  ぼくはピンチヒッターのパートを埋めることだけ考えて、家でひたすら練習し、スタジオでの練習に参加し、たまに学校のイベントや地元の小さなライブハウスでギターを弾いた。    それは今までのどれよりも充実した時間だった。
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