第1章

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 金髪だろうと、勉強ができなかろうと、見かけがチャラチャラしていようと、ピアスで体中を埋め尽くしていようと、ダメでロクデナシの青さだけはある音楽をやろうとするヤツらはいつでも、貪欲な思いの先に何かをつなごうとしていた。彼らの発端は自分たちの音を響かせたいことから始まっていた。目指しているものは単純に、かっこよく生きたい、有名になりたい、注目されたい、認められたい、共感を得たい、支持されたい、金を稼ぎたいと言ったエゴの塊だったけれど、音を紡ぎ出すことから始まる彼らの思いは純粋で、ひたむきで、ぼくにとって直線だった。彼らはこの世の支離滅裂さを無意識で感じ取っていて、その枷をなんとか振り払おうとあがいていた。自分の色をそのまま出すために。しかも、そんなヤツらは誰も、ぼくの前髪のことを気にしなかった。ぼくはそれに触れると楽になり、なんだか元気が出て、だから彼らとつながり、楽器を練習した。笑うほど下手クソでつたないバンドだったけれど、それでもよかった。そんなヤツらを、音を、声を慕って、たくさんの光が集まって来る。美しく聡明で、何もかもを持っている人よりもずっと多くの光が。    そこから奇妙なラインは次々とつながって行き、ぼくは声が掛かればどんなバンドででもギターを弾いたし、ジャンルも曲も関係なくそれをこなしているうちに、スキルは勝手に上がって行った。  様々な音や旋律と触れ合うことはものすごい発見の連続で、その度にぼくを心地良くする。音と色はどこか似ていた。自分に正直に育めば、どんなものも美しく響く。    この生活がずっとでも、ぼくはいいと思った。  でも、二年もそれをやっていれば、もう一つの現実はより濃くなってぼくらを襲う。  高校二年の後半ともなれば、世の中は勝手に動き始める。  就職は?進路は?大学は?先生が、親が、先人ならではの経験と知識で、未熟なぼくらに畳みかける。  大人とは。生きて行くということは。将来の絵図を整然と示されれば、ぼくらは自分たちが、金も稼げない、世の中で相手にされない無力な人種であることを知る。自分の色が放てても、この世じゃ暮らしていけない。折り合いをつけて、妥協して、我慢して、その悲しみと居心地の悪さをなんとかして、流れに沿って、自分の未来をこの世の不条理に託して、どうにかつじつまを合わせなければ生きられない。  
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