第1章

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 ぼくは、一緒に音楽をやりながら直線でつながっていた仲間たちが揺らぐのを見た。  この世に、自分の未来に、怖気づく彼らを見た。  ヤツらは、この世の愚かでおかしなジャッジを大幅に覆して、早くから自分の色に気づいた美しい人たちだったのに。    仲間たちはこの世の仕組みに気づき始め、一人、また一人と世の中に屈して行った。  音楽をあきらめて髪を黒く染め、ピアスをはずし、学校に行き、試験を受け、面談に応じ、就職や進学に散って行った。意外に早く、踏ん切りをつけて。彼らはちゃんと人間だった。この世の支離滅裂さを無意識で感じる一方で、自分がこの世で生きていることも無意識で知っていて、その二つを一緒に持つ余力を残していた。遊びは終わった。そろそろ、真面目に取り組まないとな。    ぼくはまた、ひとりになった。  自分の色も声も、ぼくにとっては時が来たら覚める夢なんかじゃなくて、永遠に持ち続ける核のようなものだった。こっちが本当で、この世で人がやっていることや出来事の方が幻に見える。  それでも、時は動いて行く。  ぼくだって選択を迫られる。  ぼくはこの世と自分を天秤にかける。どちらにしようか、神様の言うとおりに。いやいや、そんな頼みごと、神は聞く耳を持たない。自分で決めろと突き放すだけだ。お賽銭を投げても、うるおうのは自分でも神でもなくて、神社の人間だけなんだ。    ぼくは臆病で弱いから、考える。躊躇する。迷う。
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