第1章

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 このロケットに乗った方がきっとスムーズに行くのだ。様々なデータによって裏づけられ、守られ、危険が回避された申し分ない状態で、安全に目的地まで行くことができる。それなのにぼくは、さっぱりその世界に集中できなくて、せっかく入った学校にも授業にも、ちっとも身が入らない。興味が湧かない。力が出ない。がんばれない。成績は下がる。ぼくは落ちこぼれる。流れに乗ろうと足掻いても、心と体が疲れて全然ついて行けない。それは甘えだと人は言い、簡単にあきらめるなと人は言い、もっとちゃんとしなくてはいけないと人は言う。できないことは残念なこと。できない人は残念な人。そのレッテルにぼくは傷ついて、自信を無くす。でもぼくは秘かに叫んでいる。本当にダメなんだろうか。本当に残念なんだろうか。それですべてつじつまが合って終わりなんだろうか。ぼくの気持ちが向く方向は、怖い未来だ。そこがどんなところで、どうやって呼吸すればいいのかもわからないクセに、宇宙船から一人、宇宙に飛び出そうとする無謀な試み。バカのやること。それでもぼくはどこかで信じている。飛び出せば、自力で泳いで星に行けるんじゃないかと。そんなにまでして、自分の色に正直に生きる必要なんてあるのか。残念ながら、ぼくにはあるのだ。その必要が。だって、ぼくは知っている。このロケットが目指す場所は、ぼくが行きたい場所じゃない。その思いを紛らわすことは、この先もできないと思う。この目と耳のせいで。    ぼくは、伝わらないと知っている言葉を先生に話す。  「進学はしません」  「進学しない!?なぜだ!?」  「なぜと言われても・・・・大学に行くつもりがないからです」  「就職したいのか?家の事情か?公務員を目指しているのか?」  「いえ」  「じゃあどうするつもりなんだ」  「音楽をやりたいんです」  「音楽!?おまえ、何かやっていたのか、バイオリンとかピアノとか。じゃあ音大を目指せばいいだろう」  「いや、そういうんじゃなくて。歌を歌いたいんです」  「まさか、バンドとか歌手とか言うんじゃないだろうな」  「まぁ、わかりやすく言えば、そうです」
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