第1章

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そんなことがある度に、不思議とぼくのチャンネルは増えて行き、次からは白いほうき星がいなくても、人の心の渦は黙っていても見えるようになる。ぼくの意思や願望とは関係なく。   こうした目に見えない存在とのやり取りはよくあることだった。 伝える、受け取る、見える、感じるは瞬時にわかることで、さして時間も労力も必要とはしないし、そんなふうに日々が回っていた。   ちょうどその頃、夏休みの宿題で日記を書かなければならなくて、ぼくはつたない字で母さんと小さなほうき星のことを書いた。 すごく一生懸命に。 その日のマスを埋められたことは達成感でぼくを満たし、おまけにとても良いものを書けた自負さえあって、誇らしげに両親に見せた。その時だ。ぼくの人生の向きが変わったのは。   ぼくががんばって書いた日記を読んで、両親は強張った顔をした。  そして言ったのだ。  「この日記を書き直しなさい」と。  「これは日記だから、夢の話を書いてはいけない。本当にあったことを書かなくちゃいけない」 そう、父さんは言った。 ぼくは笑って答えた。 これは本当のことだよ、父さん。 父さんは顔を曇らせて母さんとひそひそ話を始めた。 ぼくの耳にはちゃんとそれが聞こえる。  「あの子の目、なんだかおかしいと思わないか。何かを見ているようでいて、焦点が合っていないことがある。キツい目つきといい、青みがかった白目といい、あの子は普通じゃないのかもしれない。一度病院に連れて行った方がいいんじゃないか」  ぼくの目が、その目で見たものが、彼らの恐怖になることをその時知った。 ぼくは大好きな人たちと一緒にいるのに、家族として毎日あたりまえに暮らしているのに、何かの瞬間には自分だけがひとりぼっちになることを知った。ぼくの心にはあの時の父さんの言葉と顔がいつまでも残っていて、いろんな出来事が次々と起こっても決して紛れることがなく、今だってはっきりと思い出すことができる。   あの日以来ぼくは、自分の両目が露になることを恐れるようになった。 目が見えない前髪を疑問に思ってどんなに人が気にしても、何かを言っても、中傷しても、切ることができない。 ぼくの目を見たら、きっと人は何かを感じる。この細くて一重の眼を見て。 その恐怖が今でも自分の中にあって、ぼくは大人になってもまだ自分の前髪に腹を括れないでいる。
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