第1章

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 真実ではない言葉の渦はクラスメートの中心にある本来の輝ける色をどんどん隠して、濁して、しまいには灰色になって、体だけでは収まりきらずに外に出て、教室全体を満たしていく。ぼくは息をするのが大変になって、痛くなる頭を抱える。あのきれいな色を出さずに、灰色で自分を覆うのか。苦しくはないの?疲れはしないの?悲しくはならないの?   気弱で臆病なぼくは、黙ってさえいれば誰も気に留めないほど存在感がない。それでもその時、なんだかふいに言いたくなって、さっき泣いていた女子の元に近づいた。彼女の中身がぼくには見えた。彼女の色はきれいな黄色とオレンジで、その渦は子どものようにあどけなく巻きがまだ小さくて、ほかのクラスメートたちより大人じゃなかった。だから、事は簡単な図式だったのだ。彼女は身の回りを自分から清潔に保とうとするほど、心が大人じゃなかった。それだけのことなのだ。それは微笑ましく愛らしいことに思えて、ぼくはぼくの真実を伝える気になった。   さっきとは打って変わってもう普通に戻った彼女に、ぼくは言った。  「風呂に入るのが、面倒だっただけだよな」  だが、ぼくの意に反して、彼女の顔はみるみる激しくなり、赤くなり、憎悪さえ浮かべて、ついさっき作っていた弱々しさなど吹き飛ばす力強さで、彼女はぼくを思い切り突き飛ばした。   「まだ言うの!?マジ、ムカツク。あんた、暗いくせに執念深いよ。その目、怖いんだけど!わざわざ言いに来るなんてありえない!」  「ちがう。そうじゃない。そんな話じゃないよ」  どんなに一生懸命説明しようとしても、彼女は反発し、混乱し、決して心を開かなかった。 気づけばぼくは、ちゃんと伝えられる言葉さえ持っていなくて、彼女の悲しみを増長させただけの、間が悪くてウザイ、彼女にとって死んでほしいくらいのイヤなやつになっていた。 怖い目。疎ましい目。それを見た彼女から発せられる憎悪のパワー。 その思いの力はものすごくて、痛くて、ぼくの心は粉々になる。立ち上がれないくらいに。 それでもしばらくすると彼女はそれさえも忘れたふうに元気に友だちと話し、活力に溢れた手足で廊下を歩いている。ぼくだけに変わらぬ怒りを向けたまま。   そういう人の思いを、色を、プロセスをたくさん見てきた。
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