第1章

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この世は怖くて、支離滅裂で、力強く楽しく生きて行くにはぼくは弱すぎて、それなのに途中で終わりにする潔さもないから、皆と一緒にここにいるしかない。   その折り合いをつけるために、ぼくは学習した。 無駄に聡明になった。  どうしてなのかはわからなくても、ぼくは学校に通い続けなければならなかったし、その中でどうすればよいかは黙っていてもわかってしまう。人の手を煩わせず、自分で勉強すればいい。先生のニーズに答えればいい。それなりの成績を取ればいい。親が安心すればいい。   ぼくは進学校に進んだ。一生懸命やれば、その努力と労力と悲しみが何かの役に立って開けると、希望を持って。   でも、現実はちがった。  ぼくがまだ高校に入って数ヶ月の時、先生は言った。  「進路希望の用紙に記入しなさい」  皆はなんだかんだ言いながら、サラサラとそれを書く。  ぼくにはよくわからなかった。  人の色はその時、誰もが漠然としていて、誰も何も決まっていなかったし、自分の未来の何をも見えていなかった。ぼくだってそうだ。それなのに、自分が何になりたくて何をやりたいのかを書く。その目標に向かって手を伸ばす。    どうやって?  それでも、その目標に沿うよう、先生や親が仕向ける。  何に向かって?  クラスメートたちはそんなことには疑問も持たず、面倒だと文句を言いながらもそれがあたりまえと飲み込む。  どうして?  ぼくは息が苦しくてどうにもならない。伝えたいけど、伝わらない。きっとわかってもらえない。この封印はいつまで続くのだろう。ぼくはこのまま、自分の感じたものを封印し続けて、誰とも共感できないまま、喜べないまま、楽しめないまま、死んで行くのだろうか。人の思い、そのあたりまえに漬かったまま、自分の色に苦しんで。    そう思ったら、宇宙に飛び出してもいないのに、ロケットの中で窒息する宇宙飛行士の自分が見えた。  打ちひしがれた思いで力なく歩く学校からの帰り道。  辺りに香の匂いが漂っているのに気づく。
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