ぎゅっとだきしめて

3/10
前へ
/10ページ
次へ
「もう、戻るよ!」 竜くんの体を押してじぶんから離させる。 「続きは夜な」 そっと耳元で話して、あたしよりも先に歩き出す。 「……もう」 内心バクバクいってる心臓を整えるのに必死だ。 「竜くんはなんであんなに余裕なんだろう」 あたしはすぐに顔が赤くなったり、息を整えるのに大変だったりするのに。 ──……やっぱり、竜くんは慣れてる。 前にもこうして昼休みに誰かと会っていたりしたのかな。 なんて、考えてもどうしょうもないことを考えて落ち込んでしまう。 「あたしは初めてなのに」 社会人1年目のあたしよりもっと前から社会に出てる竜くんだもん、いろんな経験があるのは当然だけど。 わかっていても、やっぱり寂しいと感じる。 「戻ろう」 緩んだ頬を引き締めるべく〝パンッ〟と頬を叩いて気合を入れる。 「こんな顔じゃなんかあったのかって思われちゃう」 深呼吸をして、ブースに戻るべく歩く。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加