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『御早う御座います、紫陽花姉さん。御待たせしました』
『お早う水無月。私も今来た所よ』
紫陽花姉さん。僕より一週間早く生まれた従姉の姉さんになります。整った顔立ちと、人と少しだけ距離を置く話し方のせいで。周囲から冷たい女性だと誤解を受ける事が多い人ですけれど。
『カチャンッ』
『魔魅もお早う』
『はい。紫陽花御嬢様。御早う御座います』
紫陽花姉さんは。マンション一階の共用区画に設置してある、自動販売機で買った缶ジュースを一本飲み終える程度の時間は、早く来て待っていてくれたのに。その事に関しては一切触れない、優しい気遣いをしてくれる素敵な女性だと僕は思います。
『それじゃあ行きましょう』
『はい、紫陽花姉さん』
紫陽花姉さんと僕は、同じマンションで暮らしていて、同じ学校に通っています。毎朝マンション一階の共用区画で待ち合わせをして。一緒に登校する事にしています。
『行くわよ』
『はい。紫陽花様』
僕は夢魔である魔魅と契約を交わしていますけれど。紫陽花姉さんは、影魔と契約を交わしていて。姉さんの影の中に普段は住まわせていますから。紫陽花姉さんは時おり足元を見て話す事がありますね。
『昨夜御父様から連絡があったわ。水無月も変わりはないか気にされていたから、特に変わりは無いようだと伝えておいたわ』
『ありがとうございます、紫陽花姉さん。叔父上にも御気遣いを賜りまして、心底よりの御礼を申し上げ奉ります』
マンション一階の自動ドアを通りながら、紫陽花姉さんは真面目な表情で頷いて。
『御父様にも、そのように伝えておくわね』
僕は魔魅を背後に従えながら、紫陽花姉さんに対して御辞儀をして。
『はい、御願いします。紫陽花姉さん』
紫陽花姉さんと僕の家は、代々神通力が強い家系になります。そして、僕達従姉弟同士が通っている学校は。そうした神通力の強い家系の家に生まれたか。突然変異的に神通力に目覚めた生徒が学んでいる学校になります。
『おっはよーーっ。紫陽花♪。それと神無月君』
紫陽花姉さんは、声の主に向けて。内心では喜んでいるのですけれど、親しい人間でないと喜んでいるとは判らない表情を向けて。
『お早う。明美』
『私と会えて、そんなに嬉しそうな表情をしてもらえて、私も嬉しいわ♪』
姉さんが照れ隠しで、普段以上に無表情を装ったので。僕が代わりに挨拶をしました。
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