花冷えの頃

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「院長先生、奥様、あの…」 きゆは二人の前へ走り寄ったものの、何を言っていいのか言葉に詰まってしまい何も話せない。 「きゆさん… 僕達を許してほしい… きゆさんがどんなにいい子かっていうのは、僕達が誰よりも知っていたはずなのに、変なプライドに縛られてそういう大切な事まで分からなくなっていた。 僕達もたくさんたくさん悩んで、考えて、やっとここに辿り着いたんだよ。 僕達のせいで、きゆさんがどれだけ苦しんできたかも、手に取るようにわかる。 君は、素直で真面目で本当にいい子だから、身を引くためにここに帰ってきたのも知っていた。 長い間、君を僕達はちゃんと見てきたから、君がそうするだろうとも思っていたんだ。 本当に悪い親だった、今ではきゆさんを傷つけた事を本当に後悔しているよ。 それに、流人はきゆさんなしじゃ生きていけないらしい。 きゆさん、流人をよろしく頼むよ。 それを言いに、この島までやって来ました… きゆさん、流人、結婚おめでとう」 大粒の涙を流すきゆに、流人の母がハンカチを渡してくれた。 きゆが涙を拭いて顔を上げると、桜の花びらが舞う中、たくさんの知っている顔が並んでいる。 流人はそんなきゆの手を引いて、その皆が作っているアーチの中を歩き始めた。
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