花冷えの頃

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きゆがこの島で一番大好きで大切な場所… 流人はちゃんと覚えていてくれた… この島に一本しかない満開の桜の木の下で、私達は唯一無二の結婚式を挙げる。 指輪がまだ準備できていなかったため指輪の交換はできなかったけれど、流人はこの島の人達を証人にして、誓いの言葉を述べ始めた。 「わたくし、池山流人は、この島の人達に誓います。 固く約束をします。 何があっても浮気はしません」 いきなりのこの言葉に場内に笑いがこぼれる。 「どんなに忙しくても、どんなに億劫でも、どんなに天気が悪く海がしけようとも、この島に一年に一回は必ず帰ってきます。 そして…… この島で生まれ育ったきゆのことを、大切にし、永遠に愛します。 きゆを愛するように、この島も、この島の人達も、大切に思っていきます。 こんないたらない僕達を受け入れてくれて、本当にありがとうございました」 この桜の下に集まっている人々は、皆、本当に流人を愛していた。 海沿いに住んでいる本田のおじいちゃんはマルを連れて離れた所から見ている。 光浦のおばあちゃんは、一番いい場所を陣取って流人の目の前に立っている。 そして、瑛太は、ちゃんとスーツを着こなしてきゆの両親の隣で微笑んでいる。 明日にはこの島から出て行く二人だけれど、流人の残した軌跡は決して消えない。 東京から島の女の子を追いかけてやって来た若いチャラいお医者さんは、いつの間にか島の人気者になり、誰よりも島を愛する人間になった。 小さな島に起こった小さな奇跡は、この桜の木のようにいつまでも皆に愛される。 そして、二人は誓いのキスをした。 真っ青な空とひらひら輝く桜の花びら、そして、島のみんなの黄色い歓声に包まれながら……
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