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春は出会いと別れの季節だという。
出会いも別れも苦手な私は、だから春が嫌いだ。
人との出会いなんて私にとっては緊張でしかなかった。人見知りなどというたった5文字の言葉では到底表せないほど、人間関係における私の心は複雑だ。今まで築いてきた人間関係を捨て去り、また新しく自分の居場所を作らなくてはならない。この作業が私にとってはひどく面倒くさいことだった。相手の顔色をうかがい、慎重に人間性を見極めて言葉を選びながら会話を交わしていく。それはまるで新しい携帯電話を契約するようなわずらわしさと、時限爆弾を解体するような慎重さを必要とした。まして「人は見た目の印象でほとんどのことが決まってしまう」などという言葉を耳にした日には、人と会うときにどんな顔をしたら良いのか分からなくなってしまった。
出会いが厄介なら別れるときはもっと厄介だ。別れる相手を前にいよいよどんな顔をして良いのか分からないからだ。小さい頃から引っ越しの経験が多く、否が応にも別れを経験してきた私は、別れというシチュエーションに鈍感になってしまったのかもしれない。しばらく会えなくなることは寂しいことだが、今生の別れというわけではない。連絡をとろうと思えばいくらだってとれるのに、と内心では思う。現に卒業式では別れる前から同窓会の約束をする声がいろいろなところから聞こえていた。世の中には再び会う約束ができる別れとそうでない別れがあるのだと、私はその時に知った。それでも卒業式で涙する同級生を見て、別れの悲しさよりも涙が出ない自分の感覚のずれに悲しくなり、なんとなく居づらくなってそそくさと家に帰った。
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