仕立て屋と恋

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小学生の頃に教室のど真ん中でそう叫びながら、いじめの主犯になっていた男子にテキサスクローバーホールドをかけた事を思い出す。過去の記憶に苛立ちを募らせていると、不意に鏡の中の女の前に真っ赤なドレスが宛がわれた。 鏡の中の女は一瞬だけ呆けた後、写し出された自分の後ろに居る男を睨み付ける。 先刻言っていたタキシードは影も形も無く、ユニーによって宛がわれているのはシックでクールなんて程遠い赤色のパーティードレスだった。 「よく似合ってる」 「さっきの話を忘れたの!?」 勢い良く叫んで眼前にはためいていたドレスを、彼の手ごと払い除けた。小気味良い手と手がぶつかる音がして、ドレスは床に落ちた。 「あ」 頭に昇った血が一気に下がり、右手に残っている鈍く痺れる感覚が自分の仕出かした事を思い出させてくれた。静まり帰った二人の間に場違いなジャズが我関せずと通り過ぎる。恐怖やら不安やら罪悪感やらが綯交ぜになりながら視線を上げれば、鏡越しのユニーの表情は照明の加減で読み取れ無い。 そのせいか無駄な想像が広がり、彼女の恐怖心を煽っていく。 頭の後ろが氷嚢を宛てられた様に冷えきっていく感覚。それが全身に伝わって、指先まで伝わった頃には歯の根が上手く合わなくなっていた。 唇の隙間から漏れ出すカチカチという、歯のぶつかる音だけが反響する。鏡の中の彼女も、暗がりでも分かる程に青ざめていた。     
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