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最後に作りあげたドレスを思い出していると、翠が腕を伸ばして声を上げた。その表情はすっきりと憑き物が落ちた様で、目の周りが少しだけ赤くなっている以外はいつも通りの翠だった。
「ユニー。ありがとう。貴方のお陰で彼の事を忘れられそうよ。それで、次はもっと良い彼氏見付けるわ」
「そ、そうだね。君にならきっとすぐ素敵なひとが見付かるよ…ってあれ?髪に埃ついている」
「え、どこ?」
天井から舞い降りたのだろうか、それとも一連のドタバタでくっ付いてしまったのだろうか、翠の艶のある黒髪の上にある埃をユニーがそっと払う。
そして無意識に近付いた彼女の顔に、心臓が馬鹿みたいに早鐘を打ち始めた。鼓膜の内側を反響して、忙しなく鳴り響く鼓動が何かを急かしている様だ。
見詰めて来るユニーを不思議に思う彼女は、長い睫毛をしばたたかせる。
部屋の灯りが、揺らめく。息が一瞬止まって、生温く埃臭い空気がユニーと翠の間を流れる。
床が軋む音と同時に、ユニーは翠の両肩を掴んだ。
「俺が君の彼氏になる、なんて駄目かな」
言い淀んでしまった。捕まえている翠はぽかんと唇を開いたままでユニーを見詰めた。そして漸く事態を飲み込めたのか、?をうっすら紅潮させて視線を逸らす。
「駄目では、ないと思うけれど」
翠は言葉を切った。決して答えを出し渋り勿体つけている訳では無かったが、あまりに唐突な言葉に答えが出せなかった。
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