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ずっと閉じていたせいか、春シーズン新作の桜色リップを縫った唇から滑り出す声は予想外に小さい。もう一つ指摘するなら、言い慣れない英語の名前のせいで更に聞き取り難さを醸し出していた。
しかし彼女は必死に怒りを露にしようと、ブーツの踵を床に叩き付ける。不快な音を立てて木製の床が軋み、猫の毛の様な埃が更に舞い上がった。埃を吸い込んでもいいと、彼女はなるべく大きな声でユニーへ詰め寄る。
「二か月前に私が貴方に依頼したのは、どんな服だったか覚えている?」
腕を組みながら、自分より頭一つ大きなユニーを睨み付けた。その強い眼光に全く怯むことなくユニーは笑顔で当然のように答えを出す。
「シックでナチュラルでクールなタキシードだったね」
「そう、覚えていたの。じゃあ注文したタキシードを受け取りたいわ。この素敵なドレスじゃなくて」
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