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今まさに綺麗に通った目尻から、滴が零れ落ちてしまいそうだとさえ思える。
「ごめな、さ」
「時任 翠ちゃん。あぁ、ちゃん付けなんて失礼だったかな。君はとっても立派なレディなのに」
罪悪感と恐怖で震える唇から抜けた言葉を断ち切るタイミングで、ユニーが言葉を紡いだ。
その嫌にはっきりと発せられた声に、彼女――時任 翠の細い肩が微かに揺れる。
それは自分の名前が呼ばれた事の驚きの為ではない。更に言うなれば、ユニーが憤りに満ちた表情をしていた訳でもない。
むしろ、その逆であった。
彼は隈の出来た目を細め、笑っていた。
それも幸せそうに、怒りなど微塵も感じさせない程に。
「君が嫌いなら、此のドレスは無しだね」
「え」
半ば短い悲鳴染みた声を上げると、ユニーは取り出したはさみで、顔色一つ変えずに床に落ちたドレスを裂いていく。不愉快な布を引き裂く音が、ザラリと鼓膜を撫で上げた気がした。まるでファスナーを上げる時の音の様だ。
どんどん真っ二つにされていくドレスの赤が、彼女の瞳の赤に反射して鈍く輝く。
ばさりとユニーがドレスの残骸を蹴とばした。打ち捨てられたドレスは先程までの煌びやかな色さえ失った様に感じられた。
「なんで」
「ん?」
「何でそんな簡単に自分の作った服を破れるの」
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