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服飾や創作を生業とする職業は作品に並々ならぬ愛情やプライドを注ぐと聞いたことがある。しかし目の前の男はどうだろうか。自分の作品をあんなに手酷くズタズタに引き裂いて、揚句足蹴にまでしてみせた。
その質問にユニーは困った様に頬をかき、勿体振った口調で答えた。
「僕はね、翠。君の事を思って、君をモチーフに、君の為だけにドレスを作った。だから、君がこの服を気に入らなかったら意味が無いんだ」
「何で、私の服なんか作…」
そこまで言いかけたところで彼は苦笑しながら、翠は『何で』が好きだね、と呟いた。
此方だって好きで質問しているわけでは無いのだけれど。流石にこの空気でそう言い返す事は躊躇われた。
「僕は仕立て屋をはじめてから、よく服が壊れる瞬間について考えるようになったんだ。さっきまで綺麗に着る人を主役に、煌びやかにしていた服がその役目を終える時。きらきら光っていたそれが、途端に光を失って違和感の塊になる。それってなんだか人で言うところの死と似てる感じがするよね。それで考えたんだ。服を殺すのは作った人とその服を着るべき人しかしちゃいけないんじゃないかって」
「着るべき人」
鸚鵡の様に紡がれた言葉を繰り返すと、ユニーはにんまりと歯を剥き出した。
そして何処からともなく取り出した、タキシードを翠の目の前にぶら下げる。きっと注文していた品だろうか、質の良さそうな白い上着がほの暗い店内で一際輝いてみえた。
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