第1章

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うだるような暑さが続く夏。 電車が来るのを待っていた。 夏休み中の登校ということもあって、普段とは違う時間の通学。 通勤時間じゃない駅のホームは人気がなかった。 ここが田舎だということもその理由の一つ。 短く涼しい待合室のないホームで電車を待つのは、なかなか忍耐力がいる。 きっとおばあちゃんなら倒れてしまうはず。 まだ一日は始まったばかりだというのに、気温はどんどん上がっていた。 電車、早くこないかな。 首筋をつたう汗を手に持っていたハンカチで拭う。 ファン。 あ、きた。 音を軽快に鳴らした電車は、颯爽とホームに入ってきた。 入ってくる直前、周りの空気が電車の方に吸い寄せられていく。 そして私の前を通った瞬間、ぶわっと吸い寄せられた空気が風となって押し寄せてきた。 風は涼しいものではなく、暑さを凝縮したかのような熱風。 また一筋の汗が頬をつたった。 到着した電車のドアが開いたと同時に中に溜まっていた冷気がホームへと流れ出てくる。 黄色い線の内側から一歩足を踏み出し、冷気へと入っていく。 涼しい。 さすがに電車内は冷房が効いていた。 入って反対側の端に座る。 車内の人はまばらだった。 2両しかないこの電車らしい人の少なさ。 そんなに人のいないこの電車が私は好きだった。 外気に負けじと頑張る冷気もそろそろ限界らしい。 ドアを閉めますという声が聞こえてきた。 ぼんやりとドアが閉まる瞬間を見ていると、そのドアの隙間を通って男の子が入ってきた。 スローモーションのように見えたが、一瞬の出来事だった。 慌てて駆け込み乗車はおやめくださいとアナウンスが流れるけど、私も彼もそんなこと聞いていなかった。 他の誰も彼がすり抜けてきたことを見ていなかったらしい。 彼を目に止める人はいなかった。 私を除いては。 ワイシャツに同じ高校の制服をきた彼は、運動部が使うようなスポーツバックを肩から下げていた。 走ってきたのか、じんわりと汗をかいている。 向かいにどすっと座った彼は、自分を見ている人がいることに気づいた。 髪と同じように黒い瞳が私を見ていた。 私は彼から目が離せなかった。
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