ウィッチ・セキュリティ

「もう気づいていると思うが、我が社の情報システムがハッキングを受けている」

　社長は言った。社長と言っても、今の私にとっては別会社の社長である。社長は椅子に座りながら、夜の東京、窓の下に広がる神宮球場の明かりを眺めていた。ナイターの明かりに照らされたその横顔からは、社長が何を考えているのか、うかがい知ることはできなかった。

「いまさら私に何か御用でしょうか？　私はもう、この会社の社員ではありません」

　そう。確かに私は一年前までこの会社に勤めていたけれど、左遷されたのだ。とある秘密を知ってしまったから。

「食えないやつだな。君も。助けてほしいと言っているのだよ。ちょうど一年前、我が社がサイバー攻撃を受けたときのように」