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ハンカチ
結とはクラスも一緒、席も隣り同士になった。
最初は<結さん>と呼んでいたし、向こうも<優哉クン>とよんでいたのだが、一週間くらい話しているうちに”さん”と”クン”は消えていった。それほど僕たちはよく話をした。
話の内容は主に結の朝ごはんだったり、あの先生の授業はつまらないとかあの先生はかっこいいとかくだらないことが多かったが、それでも僕は楽しかった。
ただ、一つ気がかりなことがあった。僕はあの時に、入学式のあの時に借りたままのハンカチを返すことが出来ていなかった。
汚れが落ちきれていないハンカチを返すことがためらわれたのだ。母親に電話して、言われた通りに洗濯してもシミが落ちなかった。そこでどうしようかと相談すると代わりのハンカチをプレゼントすればと答えが返ってきた。
女の子にプレゼントなんてしたことが無い僕は、何を選んでいいか分からないので姉さんに頼んで買い物に付いてきてもらうことにした。
「ゆうくん、彼女が出来たんだ!」
「まだ彼女じゃないです」
「『まだ』……ってことは、そのうちにってことね」
「そんなことはいいので、ハンカチを選んでください」
「あらぁ、お姉さんは手伝うだけ。選ぶのはゆうくんよ」
「でも……、どんなのを選んでいいか分からないです」
「ゆうくんが可愛いと思ったものを選べばいいと思うな」
可愛いものか………………!
「これなんかどうですかね?」
僕の視界に入ってきたハンカチは、桜の花びらをイメージするような色で一角にだけピンク色の絹で出来たリボンがあしらってあった。
「うん、いいんじゃない。可愛いし」
僕たちが出会ったあの日、地面が桜の花びらでいっぱいだったし、リボンが結という名前に掛かっていてちょうどいいと思った。
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