第1章

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でも、あたしたちの場所は彼らより少し前で、見やすいから……。 「……あ、あのね、アキさん」 「いいですよ」 「え?」 驚くあたしにアキさんは微笑んだ。 「喉も乾いたことですしね」  そう言ってアキさんはあたしの手を取って振り返った。 「良かったらこちらへどうぞ。多少ですが見やすいと思いますから」 「え? あ、うるさかったですか? すみませんっ」 すると子供のパパさんが申し訳なさそうにそう謝るから、アキさんも「違います」と苦笑い。 「人混みに酔ってしまいまして。ですからお気遣いなく」 そう言うと、アキさんは親子に場所を譲ると「ありがとうございます!」の声に軽く頭を下げるだけで、そのまま観覧席からあたしを連れ出した。
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