■16時30分~ 3年特進クラス 井森瑠衣

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ううん、ケンカじゃない。さっきも言ったじゃん。桑名しえりのせいだって。 そう、美紅が来るまでは桑名しえりがクラスの女王だったの。 しえりが美紅に話しかけるようになって、美紅も1軍のやつらと一緒にいることが多くなって、彼氏もできて。 うちもその頃バイト始めて忙しかったし、少しずつ距離ができちゃった感じかな。 だから死ぬ前の美紅のことは、ほとんど知らない。 え!? やだっ、やめてよ先生! ……最悪。 こんなの、誰にも知られたくなかったのに。 そんなマジな顔しないで。大丈夫だよ。 毎回、そんなに深く切ってないんだから。 死にたくてやってるんじゃないの。むしろその逆。 でも、美紅も初めてこの傷を見た時、先生と同じような顔で心配してくれたっけ。 なんか思い出しちゃった。 ……ううん。違うよ、美紅が死んでからじゃない。 もう、ずっと前から。 初めて切ったのは、十歳の誕生日。 ゴミだらけの汚い部屋の押し入れで、コンビニで買った苺のケーキを食べながら。 今でも覚えてるよ。 甘ったるい生クリームと、自分の血が混ざり合った、生臭いにおい。
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