■16時30分~ 3年特進クラス 井森瑠衣

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うち、六個下の弟がいたんだ。 でも一緒に暮らしたことはほとんどない。 体弱くて、生まれた時から入院したり退院したりの繰り返し。 だから母親はあいつに付きっきり。 父親? 離婚したよ。 逃げたんだろうね。弟が生まれてすぐに病気がわかってから、ママがおかしくなっちゃったから。 先生なら知ってるよね。ネグレクト、ってやつ。 うちのアパートのドア開けたらドン引きするよ。 外側もボロいけど、中は地獄絵図。 ママが夜中に飲んだチューハイの空き缶とか 脱ぎっぱなしの汚れた下着とか靴下とか 食べ残しのラーメンが垂れ下がった鍋とかで足の踏み場がなくてさ。 臭いし虫のサナギとかも散らばってて、人間が住むところじゃないんだよね。 うん、弟のことだけはちゃんとやってた。 あいつのパジャマだけは洗って綺麗にアイロンしてたよ。病院ではきっと、難病の息子を看病する健気なママってやつ、やってたんじゃない? そのストレスかな? 家にいるときはほんとに酷かった。 弟が生まれるまでは普通の家族だったんだよ? ママとパパと三人で動物園に行ったり、誕生日にケーキを食べたり。 パパがいなくなって、ママが病院で弟に付き添うようになってから、うちは学校終わったら一人で鍵を開けて、テーブルに置いてあるお金で弁当買って食べてた。 でもね、いつも一人で平気って顔しながら家に帰ってたけど、毎回ドアに鍵を挿す瞬間、心のどっかで期待するんだよ。 今日は、今日だけは、ドアを開けたら綺麗に片づいた部屋があって、あったかそうな料理の匂いがして、笑顔のママが迎えてくれるんじゃないかって。 笑えるよね。 実際、いつだって目の前にあるのは、腐った食べ物の臭いがする薄暗いゴミ部屋なんだから。
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