■16時30分~ 3年特進クラス 井森瑠衣

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……先生? どうしたの、大丈夫? びっくりしたぁ。 涙もろいんだね、カウンセラーなのに。 いいって、わかってるよ。他のやつらには内緒ね。 先生の泣き顔見てたら なんか美紅のこと思い出しちゃった。 美紅にリスカがばれたとき、絶対引かれると思ったのに 美紅優しいんだ。 うちの傷、撫でてくれたの。壊れやすいものに触るみたいに、そっと。 痛そう、もうこんなことやめてって、泣いてくれた。 あんな綺麗な涙見たの、初めてだったよ。 あの瞬間から、美紅はうちの特別になったんだ。 先生、うち、どっかおかしのかもしんない。 美紅が死んでから、まだ一回も泣いてないの。 あんなに大好きだったのに。 なんかさ、ピアスの穴開けるとき 耳たぶ氷で冷やしてから一気にバチンってやるじゃん? あんな感じ。 胸の真ん中が、冷たく痺れたみたいに感覚がなくて 美紅が死んだって現実が、太い針みたいに心臓に突き刺さって。 まだね、抜けないの。 頭ではわかってるのに、心が麻痺したみたいに感覚がないんだ。 だからすごく怖い。 ピアスの穴がじんじん疼きだすみたいに、 うちの心もいつか、美紅が死んだことを理解し始めるんじゃないかって。 それって明日なのか、一年後なのか、全然わかんないけど。 いつ来るかわかんないその日が来るのが、 怖いんだよ。
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