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しえりと初めて話したのは、中二の夏休みの直前でした。
三時間ぶっつづけでノックさせられて、体育館の裏で隠れてゲロ吐いてたとき、たまたましえりが通りかかったんです。
完璧に化粧した、ムカつくくらい涼しい顔で、汗と泥と涙にまみれた俺の顔
面白そうに見てました。
小学生の男子が虫の死骸見つけた時みたいな顔でしたね。
今でも覚えてますよ。あの、好奇心と残酷さがまざったキラキラした目。
あいつ、俺に向かってなんて言ったと思います?
『どうしてそんなに頑張るの?
こんな中学でレギュラーにもなれないレベルなら
どんなに頑張っても甲子園なんか行けないよ?
砥上ってどエムなの?』って。
そのとき、なんて言い返したのかは覚えてないけど
しえりの言葉に妙に納得して
でもそんな自分を認めたくなくて
必要以上に乱暴に食ってかかったような気がします。
胸ぐらぐらいは掴んだかも。
でもあいつ、全然うろたえもせず
楽しそうに笑いながら言ったんですよ。
『いじめられるのが好きなら、
これからはあたしがいじめてあげようか?』て。
そのせいってわけじゃないですけど
夏休みが終わるころ、俺は野球部を辞めました。
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