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「私のことが、見えるんですか?」
こちらを見下ろす警備員さんに向かって、私はそう問いかける。
早春の柔らかい日差しに照らされた彼の表情は、困ったような微笑みを浮かべていた。
「ん? ちょっとよくわからないけど……。ごめんね、この場所は通り道だから座ってると危ないんだ」
帽子から僅かに覗く、短く切りそろえられた頭髪。
生真面目で誠実そうな顔立ち。
私は思わず、ボーっと彼の顔を見つめてしまっていた。
「あの……聞いてる?」
「あ、は、はいっ! 聞いてますです!」
我に返った私は、ぴょこんと飛び跳ねるように立ち上がる。
慌てすぎて、敬語がおかしい。そそっかしいのは生きてた頃から変わらないらしい。
――そう、私は既に死んでいる。
――このそそっかしい性格のせいで。
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