愛の真実 (※改稿:2017.08.14)

9/25

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 夏の夕暮れはまだ明るい。  太陽がまだ顔を覗かせている頃、ぼんやりと光が灯された告別式会場に到着した。  痛いと思いながらも、香典を渡す。「この度はご愁傷様です」と、早口で囁くように言うと、身元を勘ぐられる前に会場前へと移動する。  ちょうど、親族が被害者の遺影を持って外へと出てきたところだった。うつむき、目元を拭っている。  それにつられるかのように、周りの人間もしゃくりあげはじめる。涙を浮かべ、「かわいそうに」だとか、「これから一人でどうやって……」と、他人にも関わらず、我が事のように心配している。  その雰囲気が、大池は嫌いだった。  殺人は殺人だし、死んだら人間は終わりだし、残された人間は自分でどうにかしていくしかない。  冷たいと思われるかもしれないが、それが現実であり、社会だ。  そのための保障だってある。  そりゃあ、かわいそうだとは思わないでもないが、所詮は他人事なのだ。  ――ん?  車に乗り込む一瞬前。  うつむき、涙を拭く彼の口元が、上向いた――ような気がした。  ――笑った?  それは一瞬で、自分の見間違いかもしれないが、たしかに笑ったような気がした。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加