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夏の夕暮れはまだ明るい。
太陽がまだ顔を覗かせている頃、ぼんやりと光が灯された告別式会場に到着した。
痛いと思いながらも、香典を渡す。「この度はご愁傷様です」と、早口で囁くように言うと、身元を勘ぐられる前に会場前へと移動する。
ちょうど、親族が被害者の遺影を持って外へと出てきたところだった。うつむき、目元を拭っている。
それにつられるかのように、周りの人間もしゃくりあげはじめる。涙を浮かべ、「かわいそうに」だとか、「これから一人でどうやって……」と、他人にも関わらず、我が事のように心配している。
その雰囲気が、大池は嫌いだった。
殺人は殺人だし、死んだら人間は終わりだし、残された人間は自分でどうにかしていくしかない。
冷たいと思われるかもしれないが、それが現実であり、社会だ。
そのための保障だってある。
そりゃあ、かわいそうだとは思わないでもないが、所詮は他人事なのだ。
――ん?
車に乗り込む一瞬前。
うつむき、涙を拭く彼の口元が、上向いた――ような気がした。
――笑った?
それは一瞬で、自分の見間違いかもしれないが、たしかに笑ったような気がした。
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