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長谷川琴名が自分のデスクで資料を読んでいると、上司である今村秋人が解剖所見を持って部屋に戻って来た。ひとりひとりに書類を手渡す。もちろん、部下である琴名にも、だ。
「肺に水が入ってたんですか。やっぱり、自殺の線で決定ですかね」
「いや――」今村がポケットを探るが、目的のものは見つからなかったようで、一瞬、苦渋の表情を浮かべる。「ちょっと気になることがある」「気になること?」
行き場を失った手を組むと、「鑑識行くぞ」と言って立ち上がった。
「え、鑑識ですか!?」
「なんだ、嫌なのか?」
「嫌っていうか……その……」
琴名が視線を彷徨わせながら言葉に窮していると、今村は強引に部下の腕を掴む。「悪いが二人一組がワンセットなんでね。ついてきてもらう」
「ちょっ、せめて心の準備!」
しかし、可愛い部下の抵抗など見知らぬ顔で、今村は鑑識課に向かう。
「せめてあの人がいませんように、せめてあの人がいませんように」
「連呼してると、逆にいてほしいような気持ちにならないか?」
「なりません!」 ドアをノックして中に入る。なんとなく、照明が暗いように思えるのは刑事ドラマの見過ぎのせいか。
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