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二人共、会社の歯車でしかなく、悩みも様々だが酔いながら話す内容は会社の愚痴ばかり。上司や経営の仕方、互いが思う改善点など結局、祈里も両親の静止を振り切ってビールを飲んでしまっていた。
「そう言えば、何でコンビニで泣いてたの?」
「あ~……。あの日、企画のプレゼンをやったんですけどダメ出しばっかりで。何ヶ月も準備に時間かけたんですけど……。指摘された事に上手く説明出来なくて。こんなに頑張ってるのに、何で上手くいかないんだろうって悲しくなって。不思議と世界で一番辛いのは私だって考えたら泣き叫んじゃいました」
「それは凄くわかるな。俺もそう思う時あるよ」
「でも、慰めてくれなかったですよ?」
「ごめん……」
「警察に慰めて貰いましたよ?」
「ど、どんまい」
次第に他の客も入る中、祈里との会話は切れ間がなく続けられた。辛い思いをしてきたのだろう。目が赤くなり、涙を流す。酔ってる事もあり、将太も祈里を慰めるように頭を撫でて上げる。まだ、知り合ったばかりなのに前からの知り合いみたいな心境にさせられた。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「はい、私もです。あ、スーツ返しますね。ちょっと、待ってて下さい」
席から立ち上がった祈里は厨房の中に入って行ってしまう。しばらくすると、大きな紙袋を抱えた祈里が姿を現し、将太に差し出した。
「スーツ、すいませんでした! 色々、話を聞いて貰ってありがとうございます! 嫌だったでしょ?! 私みたいな女の話し相手……。アドレスも消して下さい! 短い間ですが、友達が出来てよかった……」
確かに最近まで関わりたくなかった。それは面倒な事が嫌なだけだった。でも、今はもう違った。知りたいと思ってしまったのだ。祈里の事を。
「消さないよ、俺にとっても唯一の友達だし! でも、消して欲しかったら連絡して? 会いに行くよ」
出会いはドラマティックなんかじゃない。まして、ロマンティックでもなければファンタジックでもない。それでも、始まる恋に形など気にする必要はないのだ。
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