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深町朝日(ふかまちあさひ)】 「ざけんな! 人がここまで育ててやったのに!」  上司の水口に朝からどやされうんざりしていた。俺に辞令が下りたせいだ。異動願いがすんなりとおり、設計部門に移ることになったのだ。自ら異動を申し出るということは、つまり、出世競争から退(しりぞ)くという意味でもある。 「深町、悪いことは言わん。もう一度、考えなおせ」  しつこく食い下がる水口に、困り果ててしまう。いい加減にしてほしい。 「設計は、当初からの希望でしたので」 「だから、嫌なんだよ、ゆとり(・・・)は! OJTどうなってんの!?」  OJT(部下指導)についてはこっちが訊きたいくらいだ。 「なんでだよ? 俺? 俺が嫌いなの?」  水口に肩をつかまれ揺さぶられながら、まあ、それもあるけれど、と薄っすら考える。 「妻が、早く帰ってきて欲しいと言うので」  設計のほうが、定時であがれることが多い、それが一番の理由だ。 「ぬけぬけと! 祝儀返せ!」  さんざん人をこき使っておきながら、水口には呆れてしまった。
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