サブマリン、応答せよ

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缶詰を缶から直接食べているジャージ姿の椎名(しいな)朱子(あかね)が、帰ってくる結子を迎える。 「お帰り~」 朱子が缶詰をポンとテーブルに置いて嬉しそうに。 「ねえねえ、缶詰ばっかで飽きちゃった。何か美味しい物作って」 「あ~もう」 うるさそうに手を払う結子、つけっぱなしのテレビに目がいく。エプロンをつけた朱子が、手際よく料理をしながら冷蔵庫から物を出し入れして決めゼリフ。 「出し入れ簡単、この冷蔵庫があればあなたもお料理上手!」 結子、ブツンと乱暴にテレビを消して嫌み。 「誰よ、この偉く家庭的な奥様は――女優って人を騙して食ってるのね」 「演技派と言いなさい。ママがきれいだと日本中が喜ぶ」 「現実がこうだと知ったら日本中が幻滅」 朱子、肩をすくめてまたテレビを点ける。野球のニュースで風間監督のインタビューが映る。即、消す朱子。 結子、朱子の鼻先を指さして。 「オトコの噂が絶えない独身女優、実は想い人はただ一人?」 「――いいから、ごはん作ってよ」 「何であたしの帰りを待ってるのよ。どこでも外で高級料理食べてくりゃいいでしょーが」 「あんたの料理が一番おいしいんだもん」 「あのねえ、そんなの、この家庭環境が作った必然でしょ? 父親はどっかの家庭のマイホームパパ、母親は不規則なお仕事。子供の頃から栄養管理は自分次第」 また肩をすくめる朱子にたたみかける結子。 「お陰であたしの負けず嫌いは人の百万倍。妬みとかそねみとかひがみとか、マイナス感情てんこ盛りで」 「結子のそういうハングリーなとこ、好きよ」 朱子がそう言うと、今度は結子が肩をすくめて。 「ま、NO.1なんて、そういうクラ~い理由で取れることもあるってわけだ」 「何よ。ママの他にも結子の料理を一等賞って言うヤツがいるの? あ、オトコ?」 「オンナ」 つまらなさそうに唇を突き出す朱子。そして、何か思い出したように、開いた缶詰をスプーンでコン、と叩く。 「あれ? 前にも同じようなこと、なかったっけ? あんた、料理とは違う何かでNO.1て言われたって――そのときもやっぱ必然とか言ってたような……」 結子、ニッコリ笑って缶詰をもう一個朱子に渡す。 「あたし、外で食べてきたから」 ぶすっとした顔になる朱子。
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