サブマリン、応答せよ

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「Missキャッチャーってのは太ってるって意味じゃないわよ、たぶん。フツーはすぐ気付くけど」 南美、きょとんと結子を見て、そして嬉しそうにアイスを食べるペースを速める。 「そっか。でもね、『慎重打率のキャッチャー』ってまた言い直されて、それもわからないの」 南美はバッグから本を取り出す。『野球のツボ ここさえ抑えればあなたも通』というタイトル。 「どこ読んでも、『慎重打率』なんて書いてなくて。ねえ慎重な打率ってなあに?」 「慎重な打率じゃないわよ、身長――背の高さ。0.170とか0.180とか、小数点以下が身長くらいの打率のこと。普通、バッターの打率は2割とか3割だから、打てないことをそう言うのよ」 「打てない……じゃ、いい選手じゃないってこと?」 「キャッチャーっていうのは相手バッターの特徴を把握して、ピッチャーの性格なんかも理解してリードできる才能が必要なの。そういう守備の負担が大きいから、打撃は身長打率でもいいとされていた時代があるのよ。いい選手じゃないってわけじゃない」 「……そう……なんだ」 「つまり、昇進して女性上司になって、しっかり部下をリードしろっていう意味なんじゃないの?」 南美、結子の言葉に顔を伏せる。無言になり、会話がなくなる。 食べ終わってそのまま駅の改札へ入っていく南美と結子。違うホームへの別れ際。 「――私、無理よ」 南美がボソリと言う。 「だって、バシバシ人を引っ張っていくなら一つ下の杏ちゃんが一番だし、黙ってても次の仕事を先読みできる力は同期の樹里ちゃんがNO.1、顔が広くてネゴることにかけては隣の部の怜さんで……」 ジロリと南美を見る結子。 「あんたのそういうランク付けにはもうウンザリ」 「あ、ゴメン……。でも、私なんかどれを取ったってビリでしかなくて、期待に応えられるわけ……」 南美、自信なさげにうなだれる。 南美のバッグからは『野球のツボ』以外にも数冊の本がのぞいている。『三分で部下に尊敬される本』『即席! デキる上司』だの『123で身に付くリーダーのスキル』だのの背表紙。 それらを指さす結子。 「やる気あるんじゃない」 「――読んでも……ううん、読めば読むほどますます自信なくなってくの……私にはできそうもないことばっかり」 「好きにしたら? やりたいならやる、やりたくないならやめる」 グッと詰まる南美。
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