2度目の、夏

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階段を駆け上がった。 3階のトイレにかけこむ。 今のはなんだろう。 何を見てしまったんだろう。 少ししか駆けていないのに、持久走を走りきった後みたいに息が上がっていた。 足首がじんわりと痛む。 瞼をぎゅっと閉じると、彩香の長い、フワフワとした柔らかな髪が思い出された。 いつもは部活があるし、彼女は髪を1つに結わいている。だけど今日は、テスト期間だからか、結んでなくて、少し毛先がくるくると巻かれていた。 それは私でもときめいてしまいそうな、女の子らしいギャップだった。 裕介の指が触れたのを見た後、わたしはすぐ駆け出したはずなのに、なんとなくその後のイメージも見えてしまう。 微笑む裕介と、はにかむ彩香。 ふたりのその顔が世界からくり抜かれたみたいにわたしの目のスクリーンいっぱいに広がる。 ああいうのをなんと言うか知っていた。 2人の世界だ。 私はもう、どうしようもなくて、この気持ちを抑えようもなくて、なんとか込み上がってくるいろいろな何かを抑えてひとまずトイレから出た。
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