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セミの鳴く声がそこら中からした。
顔に時々変な虫が当たって目を瞑った。
獣道のような、雑草が生えまくった道をタイヤで跡付けるように走った。
5分くらい、全力で林の中を駆けた。
「けっ、こう…長い…」
どうやら緩やかに上り坂だったらしい。
ペダルが重くなったようだ。
額にも、背中にも汗がつたう。
息を切らしながら漕いでいると、急に足元が軽くなった。そこからは、すいすいと自転車が進んでいく。
緩く下っていき気づくと林は途切れた。
「はあ…はあ…」
目の前には舗装された道路があり、その道沿いに堤防が続いていた。
「これ…正門の、正面の道から続いてる…やつ…?」
林ののぼり下りで、山の麓を通って来たような感じがあったけれど、学校とその山を挟んだ向かいに当たる場所なのかもしれない。
道路を横切って堤防の前まで行く。
堤防と道路の間には歩行者用の通路があった。
自転車を堤防に立てかけるようにとめた。堤防は私の身長と同じくらいあって、少し頭が出るくらいだったけど、腕力では登れそうにない。
靴を脱いで、立てかけた自転車のサドルと荷台に足を乗せた。カタカタと少し揺れている。堤防の上に腕をついて、体を持ち上げた。
右足を堤防にかける。
自転車は倒れた。
やっとのことで堤防の上に登り、態勢を整えようとしたとき、バランスを崩した。
「きゃあっ!」
思わず目を瞑った。
「またお尻うったあ…」
もう立ち上がる気もなく、両手足を投げ出した。それからゆっくり目を開けると、目の前は海だった。夏の太陽を一身にうけて、穏やかな波がキラキラと揺れている。
水面の光は角度を変えてゆらゆらと、いろいろな色を見せてくれた。
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