2度目の、夏

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ふと、無意識に自分の髪の毛に手をかけた。 髪ゴムを外して光にかざした。 海だった。 裕介がくれたこの髪どめのきらめきは、今目の前に広がる海だと思った。 私に笑いかけた裕介。 彩香にも同じように笑いかけた。 私の髪に触れた裕介の指。 彩香の髪に触れた。 ふいに私の中の封が切れて、涙が溢れてしまった。 裕介と彩香が実際にどういう関係かは分からない。浮気だなんて早急な結論なのはわかっていた。 それでも私が信じていた彼の姿と本当の彼は違うような、私は夢を見ていて彼を見ていなかったんじゃないかって、そんな気がして情けなくなった。 私は彼のことを、もっと真摯でもっと誠実で、もっと純粋な、そういう濁りのないまっすぐな人間だと思っていたのだ。 だけど、彼は人気がある。 顔も整っていてテニスもうまい。それでも奢らず、誰にでも優しい。それは事実。 そういう男の子が、他の女の子に言い寄られないわけがなくて、それをキッパリと断れる強い意志があるなんていうのはおとぎ話の王子様だけなんじゃないだろうか。 そういうことに気がついて、情けなくて仕方なくなった。
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