2度目の、夏

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18時が過ぎて、ゾロゾロと他の部活の生徒が帰宅し始めた。テニスコートからもボールは消えて、コート整備のブラシがかけられていた。 それからまた少ししてテニス部の生徒もゾロゾロと帰りだす。用具室の鍵を返却するのに裕介だけが校舎に戻っていた。 「美希」 「あ、お疲れさま」 裕介が美術室のドアから顔をのぞかせている。制服に着替えてサッパリとした様子で爽やかに笑いかける。 さっきまで汗を流して真剣な面持ちでコートに立っていたのが嘘見たいだ。 柔らかい笑顔で私の名前を呼んで、手招きした。 「どうしたの?」 「これ、先週買い物に行った時に美希にと思って」 裕介は、担いでいたテニスバッグを下ろして、中から小さな紙袋を取り出した。 「あけていい?」 「どうぞ」 裕介は照れたようにはにかんでこめかみをかいた。 紙袋に封をしているシールを丁寧にはがして中を見ると、光を反射してきらめいているものが見えた。 髪どめのゴムに、いくつかの宝石を砕いて詰め込んだような楕円のプレートが付いていた。 「きれい…」 手にとって教室の窓越しに夕日に透かしてみる。 角度を変えると、緑だったりピンクだったり、青に発光した。 「髪、のびてきたからいいかなと思って」 裕介の手が私の髪の先に触れた。 頬が赤くなるのが分かる。 私はずっとショートカットだったけど、いつだったか裕介が、髪の長い女性の方がタイプだと言ってたときからこっそり伸ばしていた。 ああ、たぶんこれを買うために彩香に聞いたのかもしれない。彩香もテニス部で、短い間だけど私とダブルスも組んだいい友達だ。 なんだか少しでも疑っていた自分が恥ずかしくなって、そんな自分にもこんな笑顔で優しい裕介に照れくさくなって、下を向いた。 「じゃあ、また夜ラインするから」 「うん」 裕介はテニス部員が待つ方へ駆けていった。 手の中のキラキラが眩しくて、すぐに使ってしまうのがなんとなく勿体無くて私は元の袋に戻してシールを貼りなおした。
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