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無限に広がるかのような青空に、どっしりとそびえ立つ入道雲。その下に広がるのはとても澄んだ碧海で、空と海を分かつ水平線がどこにあるのか分からなくなってしまうほどでした。
海原を撫でる風は潮風となり私の所までやって来ました。そよ風というには些か強い風がワンピースの裾を揺らしていきます。潮気を強く含んでいるからでしょうか。崩れ掛けたコンクリートから覗く鉄筋は、もうすっかり赤茶けています。周囲にはぽろぽろと朽ちて欠けた破片が散らばっていました。それは赤い魚のこけらのように思えました。
体のベタつきが多少気にはなりましたけれど、今は夏なのでどこにいたってこの感覚は払拭できはしないでしょう。そう思えばこれも夏の醍醐味の一つと思えてきてしまい、この風景がより一層、開放的で素敵な物に思えてくるのでした。
私は空を飛ぶ海猫を真似て両手を広げると、潮風を全身に受けながら、この展望台の端の方の一段高くなっている場所にぴょんと乗りました。本来なら柵があったはずなのですが、何分それは私が生まれてくるずうっと前のことらしかったので、今では数本の鉄柱があるだけで柵なんて物はなかったのです。
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