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「お嬢ちゃん……一回痛い目みねーとわかんねーのか」
「忠告します」
相手の言葉が終わると同タイミング。
あたしは一言発した。
そして、クロスさせていた両腕を下げる。
「これ以上近付いたら──」
相手の目には、今のあたしがどう映っているのだろう。
あたしは男から視線を外さなかった。
沈黙が落ち、ゆっくり時が流れる。
相手は動かない。
静かに流れてくるそよ風。
それが、あたしの猫っ毛を靡かせる。
「──あたしは、あんたを殺すかもしれない」
その言葉を、相手がはっきり聞いていたのかどうかは分からない。
しかし、そのまま男はその場を動こうとはしなかった。
「にゃんにゃん♪」
猫の真似。
部室で先輩にやられたように、あたしも同じようにしてみた。
──何故だろう。
男は一歩も動かない。
表情一つ変えなかった。
やっぱり、先輩みたいな美人じゃないとドキッとしないものなのかな。
「じゃあ、あたしはもう行きます。先輩にお遣いを頼まれていて。……それでは」
最後まで反応はない。
それを確認し、軽く会釈をする。
背を向け歩き出すと、何やら後ろから近付いてくる気配を感じた。
じゃあさ、
反応しろよ。
「……ふっざけんなくそガキ!! このままなめられてたまるかってんだ!! もう容赦はしねぇ!!」
あたしは歩めていた足を止める。
そして、少し天を仰いだ。
今日は天気が良い。
晴れだ。
暖かい。
何故か、そんなことをふと思った。
──あたしは、あんたを殺すかもしれない
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