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きちんと忠告はした。
暴力は良くない、と。
だって、絶対、誰かが傷付くじゃないか。
あたしは嫌なんだ。
〝──ごめんなさい……!──〟
昔のあたしの言葉が脳裏を過る。
やってしまったら、もう取り返しはつかないんだ。
〝──ごめんなさい……ごめんなさい……!!!!──〟
あたしはひたすら彼女に謝っていた。
〝──お前、猫みたいだな──〟
「殺されるのはどっちだコラァ!!」
その言葉に我に返る。
目を少し見開くと、男の拳は目と鼻の先にあった。
それでも尚、あたしは無表情で相手の目を見つめる。
こんな奴の拳なんて、どうでも良い。
そう。
どうでも良い。
──何の意志も持たない拳なんて。
あたしは小さく口を開いた。
「その拳は、誰かを守るためにあるものだよ」
──刹那。
男の拳は空を斬り、相手の視界にあたしの姿はない。
男は目の前であった出来事が理解できていない様子。
焦っているのか、混乱しているのか。
慌てて周囲を見渡していた。
「後ろ」
無表情を貫くあたしの瞳は、
金色に変わっていた。
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