1,姉御-せんぱい-

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その言葉に、慌てるようにして男は振り返る。 驚いているのが表情で直ぐに分かった。 あたしはそれでも、金色の瞳で男を睨み付ける。 正直こんな奴の相手をしている暇はない。 それだったらまだ、先輩がよく言う面白いゲームというものをやっていた方がよっぽど良い。 と、思う。 「あなたはあたしに敵わない」 そう一言。 男はその場から一歩も動くことはなかった。 ましてや、その言葉すら聞こえているのかどうか分からない。 そして、遂に怯えた表情に変わった。 「背負っている重みの数が違うから」 あたしは脇でちょこんと片手を挙げ、男の横を通り過ぎる。 今度は男がこちらを見向きもしなかった。 というよりも、完全に戦意を喪失しているように見える。 最初からそうやって大人しくしていれば良かったのに。 「では、さようなら」 これで、ようやくおつかいに向かえる。 本当は行きたくもないんだけれど。 遅いと何か文句を言われそうだし、さっさと済ませて帰ろう。 先輩のわがままでおつかいだし、変なヤンキーの相手をしなければならないし……。 まだ昼過ぎだというのに、全く面倒な一日だ。 ──── 部室へ戻ると、待ちくたびれたかのように先輩は床に寝転がっていた。 相変わらずのタンクトップにパンツである。 もうここまでくると、だらしがないとかそういう問題ではない。 〝こういう人間〟 そう。こういう人間なのだ。 「おっそいよぅ」 帰ったと思えばこれ。 文句言うくらいなら自分で行けば良いのに。 「とりあえずズボンくらい履いて下さい」 でもやっぱり注意はする。 「んぁ? さっきもその台詞聞いたな」 「はい。言いました」 「とんがりエベレストは?」 「とりあえずズボンくらい履いて下さい」 「ジュースは──」 「とりあえずズボンくらい履いて」 「怖い怖いっ」
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