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その言葉に、慌てるようにして男は振り返る。
驚いているのが表情で直ぐに分かった。
あたしはそれでも、金色の瞳で男を睨み付ける。
正直こんな奴の相手をしている暇はない。
それだったらまだ、先輩がよく言う面白いゲームというものをやっていた方がよっぽど良い。
と、思う。
「あなたはあたしに敵わない」
そう一言。
男はその場から一歩も動くことはなかった。
ましてや、その言葉すら聞こえているのかどうか分からない。
そして、遂に怯えた表情に変わった。
「背負っている重みの数が違うから」
あたしは脇でちょこんと片手を挙げ、男の横を通り過ぎる。
今度は男がこちらを見向きもしなかった。
というよりも、完全に戦意を喪失しているように見える。
最初からそうやって大人しくしていれば良かったのに。
「では、さようなら」
これで、ようやくおつかいに向かえる。
本当は行きたくもないんだけれど。
遅いと何か文句を言われそうだし、さっさと済ませて帰ろう。
先輩のわがままでおつかいだし、変なヤンキーの相手をしなければならないし……。
まだ昼過ぎだというのに、全く面倒な一日だ。
────
部室へ戻ると、待ちくたびれたかのように先輩は床に寝転がっていた。
相変わらずのタンクトップにパンツである。
もうここまでくると、だらしがないとかそういう問題ではない。
〝こういう人間〟
そう。こういう人間なのだ。
「おっそいよぅ」
帰ったと思えばこれ。
文句言うくらいなら自分で行けば良いのに。
「とりあえずズボンくらい履いて下さい」
でもやっぱり注意はする。
「んぁ? さっきもその台詞聞いたな」
「はい。言いました」
「とんがりエベレストは?」
「とりあえずズボンくらい履いて下さい」
「ジュースは──」
「とりあえずズボンくらい履いて」
「怖い怖いっ」
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