1,姉御-せんぱい-

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「……殺す」 小さく明かりのついた薄暗い部屋。 そこから、女性の声がかすかに聞こえる。 あたしは直ぐそれに気が付いた。 ずっと独り言のように呟いている謎の声。 近くを通りかかると耳に入ってくる殺意に満ちた声。 気付かれぬよう、ちらりと部屋を除き込む。 彼女は床に寝転がり、手馴れた手付きで持っている機械を巧みに操っていた。 正直〝見慣れた〟この光景。 あたしはそんな彼女をジーっと見つめるのであった。 「……ぶっ殺す!」 再び彼女がそう口にした瞬間。 《パチンッ!!》 彼女は何かで頭をぶたれる。 その頭を叩いた犯人は、紛れもない、あたしだった。 「いたぁっ!」 少しフラフラとした後、彼女は直ぐに後ろを振り返る。 薄暗い部屋で目を凝らし、振り返る先を睨んだ。 目が合う。 鋭い目付きで、今にも飛び掛かってきそうだ。 ただ、あたしは臆さない。 「やかましいわっ!」 大きな注意とともに、あたしは手に握ったスリッパを離した。 そう。やかましい。うるさい。 だから、あたしは思い切りスリッパでぶっ叩いてやったのだ。 脳天に刺激を与えれば、今よりはまともな志向回路になってくれるのではないかと希望を抱いて。 「なーにを言うか! このボスマジつえーんだぞ。このゲームやったこともないくせに! ぶーぶー」 「やりたくないわっ! うるさいですよ本当に! なんなんですかもうっ!」 ここは── とある学園の、とある部室。 ゲーム部とかそういう関連の部ではない。 でも、部室でゲームをやっていることについては、何も触れないで下さい。 この人の生き甲斐なのだ。 それはそうと、ゲーム中のこの人はいつも淡々と独り言を並べる。 今回もいつもと同様、手に持っているゲーム機の画面を見せてきた。 しかし、興味がないので掌で押し返す。 もはや、このやり取りは恒例になっている。 「ゲームを侮辱するとは……私も遂にこの眼帯を外すときが来てしまったようだな……。そうだろ?」 そして、この〝中二病〟も相変わらず……。 眼帯に手をかけるその姿は、どこかワクワクした小学生のよう。 「ふふふ……」と奇妙に笑い、あたしの反応を待っていた。 どんなリアクションが欲しいんだ。 そもそも、お調子者なので基本無視する。 「誰に問い掛けてんですか。この……オタク!」 彼女は目を丸くし、大きな瞳が更に大きくなる。 いやいや。 分かりきってることを言ったつもりだったのだが、何故か驚かれた。 「私はオタクじゃない。……ゲームオタクだ。そこんところ、よろしくっ!」 「一緒っ! 一緒だろっ!」 そう。 この人──生粋のゲームオタクだ。
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