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あたしは、こんな先輩を見て思うことがあるんだ。
「あたしは先輩とは違います」
こんなに〝優れた人〟なのに
「美人じゃない。猫っ毛。背も低いし……」
どうして
「先輩は色々勿体ないと思います」
〝こんな出来損ないのあたしなんかといるんだろう〟
って。
あたしはセーターの裾をギュッと力一杯掴んだ。
出来損ない。
そんな言葉が、ぴったりだ。
「先輩は……やりたいこととか無いんですか。そりゃ、あたしは先輩に物凄く感謝しています。……だって──」
《バサッ!!》
あたしは先輩に勢いよく抱き付かれた。
そのまま身体が宙に浮く。
視界に映るものすべてが遅く感じた。
──スローモーション。
そして、一緒にそのまま倒れた。
視界には天井と先輩が映る。
「かっわいぃれおにゃん♪」
「や、やめ……!」
先輩はあたしの言葉を遮った。
何故だろう。
歯を見せて笑顔になった先輩は、あたしの髪をくしゃくしゃに撫で回す。
「私にも、やりたいことの一つくらいあるよ」
優しく微笑む先輩を見て、少し頬が火照った。
先輩が立ち上がり、あたしも追いかけるようにして腰をあげる。
「というか、現在進行中だな」
「へぇ先輩、そんな難しい言葉知っていたんですね。ビックリしました」
「れおにゃん! 先輩をなめすぎだろっ!」
冗談はさておき。
「どういうことですか?」
あたしはきいた。
何かあたしに隠しているのだろうか。
それとも〝ゲーム〟とか言い出したら、許さない。
「勇士部! これがやりたかったんだ」
ゲームとか、そんな訳もなく。
笑顔の先輩を見て思った。
やはり、たくさんの何かを損している気がする。
自身のことよりも、
誰かを優先する考えの持ち主なのだ。
出会った頃から。
この人は。
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