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「れおにゃん、マネー渡すから飲み物ととんがりエベレスト買ってきてぇ~。お願ぁ~い」
いつも通りダラダラ過ごして、数時間が経った頃だった。
先輩が二人掛け用ソファーの上で俯せになって寛いでいた。
もちろん、ゲーム機を両手にしっかり持って。
おまけに子供みたいに両足をバタバタさせて。
「はぁ?」
「えぇ!? 冷たいっ! 冷たいぞっ!」
高速で先輩はこちらに顔を向けた。
驚いた表情を浮かべ、目をぱちくりさせる。
「何であたしが行かなきゃいけないんですか」
「だ、だって、今……攻略中のダンジョンが……」
「……はい?」
先輩は慌ててゲーム機に視線を戻した。
挙動不審。
ゲーム機を見ているようで見ていない。
視線が左右に動いていた。
「……あと、眼帯していたら視界が狭いかなぁって」
あたしは、先輩から視線を外す。
眼帯のせいらしい。
あたしは何も言わなかった。
「れおにゃんの大好物の和菓子買ってきていいからぁ~。みたらし団子~!」
もう一度先輩を見つめる。
少し考えて、溜め息とともに肩を落とした。
「わかりました行ってきます。和菓子はまた今度にします。近々、期間限定で数量限定の商品が発売されるらしいので」
外に出る支度を整え、ゲームに夢中の先輩の元へ向かう。
「あぁ~! 私のベッドにお金置いてあるから持ってっていいよ~ん」
本当にだらしがない、この人。
しかも、ベッドに財布が置いてあるならまだしも、お札が裸のまま放り投げてあるのだから信じられない。
再び溜め息を漏らしたあと、部室の出入口へ向かう。
「気を付けろよ~。れおにゃん、可愛いんだから~」
扉の前足を止め、ほんのり赤く染まった頬を人差し指でポリポリと掻いた。
この人は、不意にこんなことを言う時がある。
「……はい」
《ガチャン》
扉を出て、部室を後にした。
あたしは別に先輩の事を嫌っているわけではない。
ただ、本当に先輩はこのままで良いのかと、不安になる時がある。
こんなあたしと一緒にいて、本当に楽しいのだろうか。
こんなあたしと一緒にいて、一生に一度のこの時を無駄にはしていないだろうか。
《ドカッ》
学園の敷地を抜け、歩道を歩いていた時だった。
下を向いて歩いていたあたしは、正面から誰かとぶつかった。
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