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平日の丁度昼過ぎの時間帯。
人通りは少ない。
慌てて顔を挙げると、そこには一回りも二回りも大きい輩がいた。
「あっ……すみません」
恐る恐る頭を下げ、男の横を通り過ぎる。
面倒なことになる前にこの場から去ろう。
そもそも、軽くぶつかってしまった程度。
普通なら「いえいえこちらこそすみません」みたいな感じで済むはず。
「おい」
背後からの図太い声で足が止まる。
ついつい、「ちっ」と小さく舌打ちをしてしまった。
なんでこうなるのだろう。
ゆっくりと振り返ると、そいつは眉間にシワを寄せ少々怒り気味のご様子だった。
メンドクサ。
「はい、なんでしょう」
「なんでしょうじゃねーだろコラァ」
男は一歩こちらへ踏み出す。
あたしは特に動じず、その場を動かなかった。
「服が汚れた。どーしてくれんだ」
あたしは無表情のまま男を見据える。
つい、笑いそうになってしまった。
汚れた? なんで?
おかしなことを言う人がいるものだ。
どうやら、この人は誰かとぶつかると服が汚れてしまうらしい。
「汚れないでしょ。軽くぶつかっただけで。ちゃんと洗濯してるんですか、その服」
男の服を指差した。
そもそも正面同士でぶつかった時点で、相手も前を見ていなかったのではないか。
お互い様。
「洗ってるわっ! 生意気なガキだな!」
「だって、言ってること可笑しいでしょ」
「……殺すぞ」
もう一歩踏み込んできたところだった。
「ちょっと待ったっ!!」
あたしは掌を相手に向ける。
それを見た男は、一瞬動きを止めた。
「暴力は、ダメーーーっ!!」
両腕を体の前でクロスさせると、大男は更に怒りの表情を強める。
力拳を体の脇でプルプル震わせていた。
ふざけている訳じゃない。
正しいことを言っただけだ。
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