1,姉御-せんぱい-

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平日の丁度昼過ぎの時間帯。 人通りは少ない。 慌てて顔を挙げると、そこには一回りも二回りも大きい輩がいた。 「あっ……すみません」 恐る恐る頭を下げ、男の横を通り過ぎる。 面倒なことになる前にこの場から去ろう。 そもそも、軽くぶつかってしまった程度。 普通なら「いえいえこちらこそすみません」みたいな感じで済むはず。 「おい」 背後からの図太い声で足が止まる。 ついつい、「ちっ」と小さく舌打ちをしてしまった。 なんでこうなるのだろう。 ゆっくりと振り返ると、そいつは眉間にシワを寄せ少々怒り気味のご様子だった。 メンドクサ。 「はい、なんでしょう」 「なんでしょうじゃねーだろコラァ」 男は一歩こちらへ踏み出す。 あたしは特に動じず、その場を動かなかった。 「服が汚れた。どーしてくれんだ」 あたしは無表情のまま男を見据える。 つい、笑いそうになってしまった。 汚れた? なんで? おかしなことを言う人がいるものだ。 どうやら、この人は誰かとぶつかると服が汚れてしまうらしい。 「汚れないでしょ。軽くぶつかっただけで。ちゃんと洗濯してるんですか、その服」 男の服を指差した。 そもそも正面同士でぶつかった時点で、相手も前を見ていなかったのではないか。 お互い様。 「洗ってるわっ! 生意気なガキだな!」 「だって、言ってること可笑しいでしょ」 「……殺すぞ」 もう一歩踏み込んできたところだった。 「ちょっと待ったっ!!」 あたしは掌を相手に向ける。 それを見た男は、一瞬動きを止めた。 「暴力は、ダメーーーっ!!」 両腕を体の前でクロスさせると、大男は更に怒りの表情を強める。 力拳を体の脇でプルプル震わせていた。 ふざけている訳じゃない。 正しいことを言っただけだ。
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