第1章 サクラ咲く

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1 「ほら、写真撮るよー。」 透き通るような青い空に燦々と煌めく太陽、消えかけの月でさえ、今日は何だか綺麗だ。雲は優雅に泳ぎ、地に注ぐ光は恐れがないみたいに真っ直ぐだ。 卒業式の天気としては文句無しの晴れ日和だろう。僕は人生2回目の卒業式だけど、嬉しむべきか悲しむべきかまだ分からない。でも、こんな天気だと嫌でも明るい気分になれる。 この学校は海が近いから、海からも波の音や鳥の鳴き声などがよく聞こえる。耳を澄ませば、僕達を祝福してくれているようにも聞こえる……気のせいだろうけど。 式後の時間は、生徒のほぼほぼが自由にしていた。 写真を撮るもの、アルバムにメッセージを書き込むもの、はたまたすぐに帰るもの。みんな楽しそうに笑って話している。 でも、僕は笑えなかった。別に普段から寡黙という訳ではないけど、今日だけはどうしても前を向けない。 校長先生が言ってた、未来に向かって一人ひとり歩みましょう、って。聞いていて僕は怖かった。想像してしまうんだよ。もし、またあの日のようなことがあったらどうしようか。 前よりではないけど、それでも前に進もうとするのを重い鎖が邪魔をする。過去に囚われ続ける僕は、あの日を2度と忘れないだろう。 「じゃ、帰るわ。」 写真も撮ったし、もう用事は済んだ。 「えー、もう帰るの?カラオケは??」 「ごめん。今日はパス。また今度な。」 カラオケは好きだけど、こんな気分で行っても楽しくはないだろう。それに、今日は、年に一度過去に向き合える日だ。あいつに会いに行かないといけない。 2 学校を出た僕は、すぐさま最寄り駅に向かった。歩いてだいたい15分。朝も歩いた道をまた踏み直す。 この道は桜が綺麗だ。蝶みたいに自由に舞う花びらが、駅までの地味な道のりを可憐に彩ってくれた。 卒業式なのに桜が満開だった。今年は咲く時期が早いのかもしれない。入学式までに全部散らないことを願おう。 桜道を少し抜けたら、すぐ駅が見えた。茶色の四角い建物。『大洗駅』の看板がなかったら、市役所に見えなくもない。 改札を過ぎ、到着した電車に乗る。中はガランとしていて、席はすぐに確保できた。 最終目的地は那須塩原駅。面倒な乗り換えと、長い時間を要する。 電車が刻むリズムが僕を煽る。幸福か悲哀か。僕に過去に向き合えと言ってくる。 各駅停車の電車のアナウンスが
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