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エピローグ
「カミタカハラキッペイ!」
あれから数ヶ月。大賀さんと俺は、今も親交を重ねている。
「ああ、大賀さん。今日も素敵な格好ですね」
一階上の踊り場から覗き込んでいる大賀さんを見上げて答えると、大賀さんは身を乗り出して手を振った。美しい海のような色をした服がよく似合っている。
「良いアオザイが手に入ったのでな! そっちは教室移動か?」
「視聴覚室でビデオを見るんです」
「そうか。しっかり勉学に励めよ。じゃあなっ!」
こたえて手を振り、再び顔を前に向けた時、驚いた顔をした友人に袖を引っ張られた。
「おい…もしかしてお前、あの変人大賀夕季と仲良くなったのか? てか、いくら私服校っつっても限界があるだろ…」
「あれ、知らなかった? 椎垣。
この前『ようやく名字が言えるようになった!』って喜んじゃって、それからずっとフルネーム呼びされてるんだよ。」
椎垣は一瞬神妙な顔を見せたかと思うと、俺の肩に手を乗せた。
「…悪い。俺、あいつのこと『ブスっぽい』とか言ったよな。」
「ああ、そんな昔のこと、よく覚えてるね。わざわざ謝らなくても、俺は全然気にしてないよ。それに、」
「それに?」
何となく付け足した言葉を、椎垣はわざとらしく繰り返した。なぜか幸福な高揚が込み上げてくる。俺は小さく笑い、椎垣を見た。
「大賀さん、実は美人だし。」
椎垣はしばらくの間きょとんとしたあと、声を上げて笑い、俺をこづいた。
そのまま階段をのぼっていった。
数ヶ月前の俺には見えなかった、新たな未来を予感しながら。
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