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「大賀夕季なら有名だよ。あの風貌と奇行で、変人として名を馳せてるぜ」
教室に戻った途端、今までのことが全て夢だったような気がしてきて、俺はクラスメートに大賀さんのことを聞いた。
「嫌われて…?」
「イヤ。不思議と、そーゆー話を聞いたことはない。でも俺は興味ねぇな。前にちょっと見た時、ブスっぽかったような気がするし」
(そうかな…髪と瞳の、綺麗なひとだと思ったけど)
チャイムが鳴り終わったのと同時に蘇った俺の理性は、次の授業には欠席出来ないことを警告していた。幸福にかまけていた頃、その授業を何回も欠席したせいで、あと一回でも休んだら進級が危ないと、担任に厳しく注意されていたのだ。
屋上の扉に手をかけ、振り向いた俺の心の中には、たくさんの言葉がつまっていた。
聞きたいことがあった。話したいことがあった。
もう心は、空洞ではなかった。
「本当にお前、知らなかったのか?」
声をかけられ、目を見開く。
「あ…うん」
「へー。珍しいな。お前っていっつも、俺より多くのこと知ってるのにな」
「……」
粉雪は、量と勢いを増している。
――――つもるかな。
――――つもるよ。
そんな言葉が、聞こえる。
――――さいしょの雪のひとひらは、誰がみつけたのかな。
そんな言葉に、おどろく。
誰が言ったのか、気になって振り返ってみても、そこには誰も居ない。
想いが巡る。
さいしょのゆきのひとひら―――――俺にはきっと、見つけられないだろう。
そのような美しいものは、彼女のような人の目にのみ捉えられるに違いない。
不意に哀しくなり、机にうつぶせた。その時教師が入ってきて、教室がしんとした。
頬にはりついた髪をはらい、号令に従って立ち上がる。窓を見やった時目に映った光が、そこにうっすらと涙が浮かんでいたことを教えた。
俺は、心に血が通い始めたことを知った。
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