【1】 鐘

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   * 「大賀夕季なら有名だよ。あの風貌と奇行で、変人として名を馳せてるぜ」  教室に戻った途端、今までのことが全て夢だったような気がしてきて、俺はクラスメートに大賀さんのことを聞いた。  「嫌われて…?」 「イヤ。不思議と、そーゆー話を聞いたことはない。でも俺は興味ねぇな。前にちょっと見た時、ブスっぽかったような気がするし」 (そうかな…髪と瞳の、綺麗なひとだと思ったけど)  チャイムが鳴り終わったのと同時に蘇った俺の理性は、次の授業には欠席出来ないことを警告していた。幸福にかまけていた頃、その授業を何回も欠席したせいで、あと一回でも休んだら進級が危ないと、担任に厳しく注意されていたのだ。  屋上の扉に手をかけ、振り向いた俺の心の中には、たくさんの言葉がつまっていた。  聞きたいことがあった。話したいことがあった。  もう心は、空洞ではなかった。 「本当にお前、知らなかったのか?」  声をかけられ、目を見開く。 「あ…うん」 「へー。珍しいな。お前っていっつも、俺より多くのこと知ってるのにな」 「……」  粉雪は、量と勢いを増している。 ――――つもるかな。 ――――つもるよ。  そんな言葉が、聞こえる。 ――――さいしょの雪のひとひらは、誰がみつけたのかな。  そんな言葉に、おどろく。  誰が言ったのか、気になって振り返ってみても、そこには誰も居ない。  想いが巡る。  さいしょのゆきのひとひら―――――俺にはきっと、見つけられないだろう。  そのような美しいものは、彼女のような人の目にのみ捉えられるに違いない。  不意に哀しくなり、机にうつぶせた。その時教師が入ってきて、教室がしんとした。  頬にはりついた髪をはらい、号令に従って立ち上がる。窓を見やった時目に映った光が、そこにうっすらと涙が浮かんでいたことを教えた。  俺は、心に血が通い始めたことを知った。
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