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【3】 祈り
『桔平、彼女と別れたんだよね? なら、私と付き合ってくれないかな…』
粉雪の日から数日後、クラスメートに呼び出された。
『……』
醜い欲望が燃え上がった。
目の前の人間を愛することは生涯無いという確信を持ちながら、彼女からの好意を貪り喰い、やめてくれと叫ばれても一生離さず、欲望の赴くまま慰みものにしてやりたいと思った。俺のせいで彼女が狂ってくれるなら、この痛みも少しは報われるのかもしれない―――――そこで狂気は途切れた。
雲をわける風のように、ひとつの情景がよぎった。
あの粉雪の日。俺は空洞を更に拡げる為に、屋上にのぼった。なげやりで、自虐的な気分だった。世界は狭く、歪み、濁っていた。
君の言葉が降ってくるまでは。
「生きているということは、何かに支えられているということだ。支える手が冷たくとも、それは孤独じゃない。だから、孤独という言葉に身を委ねてはならない。それは、間違ってるんだ」
―――――愛する人の側に居たとき。俺を支える手はいつもあたたかく、愛に溢れていた。俺はずっと、その手が無くなったら生きていけないと思っていた。
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